もはや
できあいの思想には倚りかかりたくない
もはや
できあいの宗教には倚りかかりたくない
もはや
できあいの学問には倚りかかりたくない
もはや
いかなる権威にも倚りかかりたくはない
ながく生きて
心底学んだのはそれぐらい
じぶんの耳目
じぶんの二本足のみで立っていて
なに不都合のことやある
倚りかかるとすれば
それは
椅子の背もたれだけ

茨木のり子(いばらぎ のりこ、1926年(大正15年)6月12日 – 2006年(平成18年)2月17日)、日本の詩人、エッセイスト、童話作家、脚本家。主な詩集に、『見えない配達夫』『鎮魂歌』『自分の感受性くらい』『倚(よ)りかからず』など。戦時下の女性の青春を描いた代表作の詩「わたしが一番きれいだったとき」(1958年刊行の第二詩集『見えない配達夫』収録)は、多数の国語教科書に掲載されている。