僕には才能がない。
そう言ってしまうのは、
いっそ楽だった。
でも、
必要なのは、才能じゃない。
少なくとも、
今の段階で必要なのは、
才能じゃない。
そう思うことで
自分を励ましてきた。
才能という言葉で紛らわせてはいけない。
あきらめる口実に使うわけにはいかない。
経験や、訓練や、
努力や、知恵、機転、
根気、そして情熱。
才能が足りないなら、
そういうもので置き換えよう。
もしも、
いつか、
どうしても置き換えられないものがあると気づいたら、
そのときにあきらめればいいではないか。
― 『羊と鋼の森』宮下奈都 著