傷を愛せるか。
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心の傷にもいろんな傷がある。
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擦り傷、切り傷、打撲傷。
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自傷、他傷。
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傷つけられたという傷。
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傷つけてしまったという傷。
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いつまで経っても治らない傷、
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かさぶたがすぐ剝がれる傷、
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どんどん合併症を起こしていく傷、
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感染を起こす傷、
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肉芽が盛り上がり、ひきつれて、瘢痕を残す傷、
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身体の機能不全を起こす傷。
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傷は痛い。
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そのままでも痛いし、
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さわられると、もっと痛い。
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傷を愛することはむずかしい。
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傷は醜い。
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傷はみじめである。
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直視できなくてもいい。
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ときには目を背け、見えないふりをしてもいい。
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隠してもいい。
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(・・・・・・)
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ただ、
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傷をなかったことには、しないでいたい。
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(・・・・・・)
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傷がそこにあることを認め、
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受け入れ、
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傷のまわりをそっとなぞること。
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身体全体をいたわること。
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ひきつれや瘢痕を抱え、包むこと。
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さらなる傷を負わないよう、
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手当てをし、
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好奇の目からは隠し、
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それでも恥じないこと。
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傷とともにその後を生きつづけること。
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傷を愛せないわたしを、あなたを、
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愛してみたい。
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傷を愛せないあなたを、わたしを、
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愛してみたい。
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― 『傷を愛せるか』宮地尚子
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