(1)
私は、言論と日本刀というものは同じもので、
何千万人相手にしても、
俺一人だというのが言論だと思うのです。
一人の人間を大勢で寄ってたかってぶち壊すのは、
言論ではなくて、そういうものを暴力という。
つまり一人の日本刀の言論だ。
(2)
民主主義と暗殺はつきもので、
共産主義と粛清はつきものだと思っております。
共産主義の粛清のほうが数が多いだけ、始末が悪い。
たとえば暗殺が全然なかったら、
政治家はどんなに不真面目になるか、
殺される心配がなかったら、いくらでも嘘がつける。
(3)
崇高なものが現代では無力で、
滑稽なものにだけ野蛮な力がある。
(4)
ぼくはアメリカ人にも言うんだけど、
「日本人は民主主義のために死なないよ」と
前から言っている。
今後もそうだろうと思う。
(5)
打算のない愛情とよく言ひますが、
打算のないことを証明するものは、
打算を証明するものと同様に、
「お金」の他にはありません。
打算があつてこそ「打算のない行為」もあるのですから、
いちばん純粋な「打算のない行為」は
打算の中にしかありえないわけです。
(6)
そんなに、「どうせ私なんぞ」式外交ばかりやらないで、
たまにはゴテてみたらどうだらう。
さうすることによつて、
自分の何ほどかの力が確認されるといふものであります。
(7)
「自分の子供が可愛い」などといふ感情は
ワイセツな感情であつて、
人に示すべきものではないらしい。
(8)
やたらと人に弱味をさらけ出す人間のことを、
私は躊躇なく「無礼者」と呼びます。
(9)
寡黙な人間は、
寡黙な秘密を持つものである。
(10)
なぜ大人は酒を飲むのか。
大人になると悲しいことに、
酒を呑まなくては酔へないからである。
子供なら、何も呑まなくても、
忽ち遊びに酔つてしまふことができる。
(11)
無神論も、徹底すれば徹底するほど、
唯一神信仰の裏返しにすぎぬ。
無気力も、徹底すれば徹底するほど、
情熱の裏返しにすぎぬ。
(12)
裏切りは、かならずしも
悪人と善人のあひだでおこるとはかぎらない。
(13)
美女と醜女とのひどい階級差は、
美男と醜男との階級差とは比べものにならない。
(14)
男が金をほしがるのは
つまり女が金をほしがるからだといふのは真理だな。
(15)
この世に一つ幸福があれば
必ずそれに対応する不幸が一つある筈だ。